製造業の事故・トラブルの現状
製造業では、品質管理に伴うリコールや工場における火災・労働災害などが頻繁に発生しており、これらの事故やトラブルの未然防止を余儀なくされている。これらの事故の主な発生原因の一つは、作業前や設備・機械設計時の調査・検討不足によるヒューマンエラーである。製造プロセスの複雑化と共に、人為的ミスが起こりやすくなっており、その結果として重大な事故が発生している。
ナレッジの活用と課題
社内外には業務に関するナレッジが膨大に蓄積されているが、その活用が十分に行われていない現状がある。主な要因として以下の点が挙げられる。
ナレッジの量が膨大であり、それらが点在していること
データのフォーマットにばらつきがあること
必要なナレッジを迅速に見つけ出すことが困難であること
これらの要因から、効果的なナレッジ活用が難しく、結果として事故やトラブルの未然防止が困難になっている。
LLMシステムの活用による解決策
この問題に対する解決策として、社内外のナレッジをインプットした大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)の活用が有効である。具体的には、次のような効果が期待できる。
膨大なテキストデータから必要な情報を迅速に抽出する能力
点在するナレッジを統合し、一貫したアドバイスを提供する能力
ヒューマンエラーを防止するための具体的な対策や注意点を提示する能力
しかし、特定のデータをインプットしたLLMシステムを利用している企業はまだ少なく、その理由としては、自社ユースケースおよび得られる具体的な効果が不明確であることが挙げられる。
Kiei Advisor Systemの開発
Kieiは、企業へユースケースの検討環境を提供すること、および事故・トラブルの未然防止への有効性を検証することを目的に、RAGを用いたLLMシステム「Kiei Advisor System」を開発した。このシステムは以下の特徴を持つ。
インシデントに関する指摘:作業の注意事項などを質問すると、過去のインシデント事例から学び得た知見を基にアドバイスを提供
自社ナレッジの標準化:属人化したナレッジをいつでも確認できることで、標準化を実現
適切なアドバイス:社内に蓄積された膨大なデータを解析し、様々なユースケースにおいて適切なアドバイスを行う
作業前や設備・機械設計時の調査・検討不足によるヒューマンエラー
図1の通り、令和5年度における重大製品事故件数は1,186件である。(図1)発生の主な原因の一つとして、設備・機械使用前の調査・検討不足があると考えている。作業前にマニュアルや過去のヒヤリハット事例の内容を確認し、作業内容や危険個所などを把握することで作業の安全性は向上し、関連するトラブル事例を参照することで確認すべき項目がわかり、予期しないミスを予防することができる。このようにマニュアル、ヒヤリハット事例、安全管理報告書、トラブル原因検討書など様々なナレッジを調査し、検討に活用することでヒューマンエラーの防止につながるはずだ。
最大活用できない社内外ナレッジ
一方、社内外には業務に関するナレッジが蓄積されているが量が膨大であること、問題解決のために必要なナレッジが属人化・煩雑に保管されていることなどが原因で、ナレッジを十分に活用できていない企業が増えている。活用していたとしても実行する業務に関連するナレッジの検索をすることはできるが、該当したナレッジを一つ一つ確認し、参考となる記載の有無を確認する必要があるため、業務負担となってしまう。結果として、過去に蓄積された貴重な知識(データ)は活用されず、類似の検討に多大な時間を割くことや類似トラブルが発生してしまう可能性があると考えている。これまでは社内のベテラン作業員などが過去のナレッジを記憶して適宜アドバイスしていたケースも多いと考えられるが、高齢化に伴い退職していくことが想定されるため、今後も業務品質を維持向上させるためには社内外に眠っているナレッジの有効活用が必須となる。
大規模言語モデルによるナレッジの活用
大規模言語モデルで実現できること
ナレッジの有効活用の手段として、ChatGPTで話題となった大規模言語モデル(LLM : Large Language Model)の活用が挙げられる。大規模言語モデルとは、インターネット上の大量のテキストデータを学習したAIであり、高い解析力と自然言語処理能力により文章の生成、要約、翻訳、情報提供などを可能とする。
一方、通常の大規模言語モデルは汎用的なタスクに活用することはできるが、社内文書のような自社特有のナレッジが入っていないため、自社の業務に対して適切なアドバイスを提示することが難しい。
そこで我々は、検索によって生成機能を強化する技術(RAG : Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)を活用し、特定のデータ(ナレッジ)をLLMシステムにインプットすることで、自社の業務に合ったLLMシステムを構築した。この技術により社内外の膨大なナレッジから自社の業務に合う情報を文章として提示することが可能となる。
導入課題:自社ユースケースと効果が不鮮明
特定のデータをインプットしたLLMシステムの構築は企業に莫大なビジネスインパクトをもたらす。しかしながら現時点で活用している企業は多くない。(図2)その理由は、実際に検証するためにはコストがかかり、自社ユースケースやそれにより得られる効果の透明性が低いことから導入の検討段階に至っていないことが挙げられる。
社内ナレッジ×LLM=Kiei Adviser System
これらの導入課題を解決する方法として、KieiはR&Dの取り組みなどを通じて、RAGの有用性に関して検証を行った。
LLMの持つ無限の可能性
大規模言語モデル(LLM)の強みは多岐にわたるが、主に以下の点に集約される。
まず、膨大なデータセットから学習することで得られる高い言語理解能力である。LLMはインターネット上の多種多様なテキストデータを基に訓練されており、その結果、幅広い知識を持ち、様々なトピックについての質問に対して有用な情報を提供することができる。この広範な知識ベースにより、一般的な情報提供だけでなく、専門的な質問にも対応可能である。
次に、自然言語処理能力の高さである。LLMは文脈を理解し、自然な言葉遣いで文章を生成することができる。これにより、ユーザーはまるで人間と対話しているかのような自然なやり取りが可能となる。文章の生成、要約、翻訳など、多岐にわたる自然言語処理タスクを高精度でこなすことができる点が特徴である。
さらに、柔軟性と適応性が挙げられる。LLMは特定のタスクに対して事前に訓練を必要とせず、汎用的な目的で使用できる。追加のデータや調整を加えることで、特定の業務やニーズに合わせたカスタマイズも可能である。例えば、特定の業界や企業のドメイン知識を取り込むことで、より精度の高いアドバイスや情報提供ができるようになる。
最後に、リアルタイムでの対応能力である。LLMは即座に質問に答えることができ、ユーザーのニーズに迅速に対応する。この即応性により、業務の効率化や意思決定の迅速化が図られる。
LLMの強みは高い言語理解能力、自然な文章生成、柔軟な適応性、そしてリアルタイムでの対応能力にある。これらの強みを活かすことで、企業は多様なニーズに応じた効果的な情報活用が可能となる。
RAGの有用性
これらのLLMの持つ能力を最大限引き出し、ビジネスにおいて活用するためにはRAG( Retrieval-Augmented Generation 検索拡張生成)を活用することが有用である。
自社内のナレッジやデータをインプットし、業務に合わせたLLMシステムを構築することで、膨大なナレッジから適切な情報を引き出すことを可能とする。
Kiei Advisor Systemで可能になる、品質管理効率化の未来
「Kiei Advisor System」を起点とし、マニュアル、FAQデータ、インシデントレポート、設計図などの自社ナレッジを投入することで、自社業務に特化したLLMシステムを構築できる。設備・機械使用時や作業前に注意点や確認すべき事項を自社特化型LLMシステムに質問することにより、蓄積された社内ナレッジに基づく有益なアドバイスを即座に取得できるようになる。発展的な活用として、対話形式のみではなく、過去の報告書をインプットデータとすることで、アップロードした報告内容に対し、アドバイスを自動的に得ることが可能であり、多角的なアドバイスにより検討・確認不足による作業ミスを未然に防止する。(図3)
自社特化型LLMシステムは、事故やトラブルの未然防止などの課題解決だけでなく、新たな価値創出のサポートにも多大な可能性を秘めている。例えば、各事業所で実施した生産効率化や省力化などの改善活動に関する報告書をLLMシステムへインプットすることにより、全社共通で改善活動のヒントを得ることが可能となる。このプロセスを通じて、全社的な収益改善や省力化の底上げが実現できる。
また、LLMシステムは、過去のデータからトレンドやパターンを見つけ出し、将来の予測や新しい戦略の立案にも役立つ。
さらに、LLMシステムは異なる部門間での知識共有を促進するツールとしても機能する。例えば、開発部門での技術的な知見やノウハウを他の部門と共有することで、全体としての技術力向上が図られる。また、営業部門で得られた顧客のフィードバックや市場動向を製品開発に反映させることで、より市場ニーズに即した製品開発が可能となる。
LLMシステムの導入により、企業は単なるデータの蓄積にとどまらず、それを有効活用することで新たな価値を創出し、競争力を強化することが可能となる。特に製造業においては、生産性向上、コスト削減、品質改善など、さまざまな面での効果が期待される。
したがって、LLMシステムを効果的に活用するための戦略的な取り組みが必要であり、そのための準備と投資は企業にとって不可欠であると言える。
Kieiでは多くの企業との検証により「Kiei Advisor System」を実際に利用していただける試験的環境を用意した。実際の業務効率化へのインパクトを図るためにぜひ一度活用していただきたい。
Kieiは「日本を気鋭の国に」を実現するため今後もAIの研究を重ね、各産業へのDX促進を支援する。
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